らの家々の路地奥にある待合や芸妓家の門標であることに気のついた頃はそうした軒燈を幾つとなく見て過ぎた。
旨そうな油の香を四辺に漂わしながらジウジウと音をさせている天ぷら屋の店頭に立っている[#「立っている」は底本では「立つている」]半玉のすんなり[#「すんなり」に傍点]した姿はこの上もなく明るいものに見られた。
この町のこうした情調に酔いつゝある間に俥は姉の家へ這入るべき路地口へついた。蝶のように袂をひらめかしながら飛んで来た小娘が「随分待ってたのよ」と云う、それは妹であった。
家に入ると、姉は私を待ちあぐんで、既に独酌の盃を重ねているのだった。私も早速盃を受けて何杯かを傾けた。
俳句などには何の理解も持たぬ姉ながら妹に命じて椽の障子を開けさせたり、窓を開かせたりして私を喜ばしてくれるのは身にしみて嬉しかった。
三坪ほどしかない庭の僅か許りの立木ではあるが、昨年来た時の親しみを再び味わしてくれるのに充分である。昨日植木屋を入れて植えさせたと云う薪のような松が五六本隅の方に押し並んで居るのも何となく心を惹く。手水桶を吊り下げてある軒端の八ツ手は去年来た時よりも伸び太って、そのつ
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