町を通り、一切の流行唄を聴くまいとする。しかも僕の渇いた心は、渇者が水を求めるやうに、自然にそれの方へ引きつけられる。なぜならそれらの音楽以外に、僕等の現実の社会的生活感情を表現し、魂の渇きを充たしてくれる芸術がないからだ。僕は珈琲店の椅子で酒を飲み、大衆と共に「あなたと呼べば」を唄つた後で、自ら自分の髪の毛をむしりながら、自分に向つて「この大馬鹿野郎奴」と叫ぶのである。僕等は時代のトリコである。何物からも脱れられない。一切は絶望的に決定されてる。今日の社会に於ては、私が「私自身」を拒絶する外、詩人としての生きる道が無いのである。
底本:「日本の名随筆 別巻82 演歌」作品社
1997(平成9)年12月25日第1刷発行
底本の親本:「萩原朔太郎全集」筑摩書房
1975(昭和50)年9月
入力:浦山敦子
校正:川山隆
2008年4月8日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全8ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング