の雑沓の中をうろついたり、反響もない読者を相手にして、用にも立たぬ独語などをしやべつて居る。
 町へ行くときも、酒を飲むときも、女と遊ぶときも、僕は常にただ一人である。友人と一緒になる場合は、極く稀れに特別の例外でしかない。多くの人は、仲間と一緒の方を楽しむらしい。ただ僕だけが変人であり、一人の自由と気まま勝手を楽しむのである。だがそれだけまた友が恋しく、稀れに懐かしい友人と逢つた時など、恋人のやうに嬉しく離れがたい。「常に孤独で居る人間は、稀れに逢ふ友人との会合を、さながら宴会のやうに嬉しがる」とニイチェが言つてるのは真理である。つまりよく考へて見れば、僕も決して交際嫌ひといふわけではない。ただ多くの一般の人々は、僕の変人である性格を理解してくれないので、こちらで自分を仮装したり、警戒したり、絶えず神経を使つたりして、社交そのものが煩はしく、窮屈に感じられるからである。僕は好んで洞窟に棲んでるのではない。むしろ孤独を強ひられて居るのである。
 かうした僕の性癖は、一つにはまた環境からも来て居るのである。医者といふ職業上から、父は患者以外の来客を煩さがつて居た。父の交際法は西洋式で、い
前へ 次へ
全11ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング