ど、僕は皆から憎まれ、苛められ、仲間はづれにされ通して来た。小学校から中学校へかけ、学生時代の僕の過去は、今から考へてみて、僕の生涯の中での最も呪はしく陰鬱な時代であり、まさしく悪夢の追憶だつた。
 かうした環境の事情からして、僕は益※[#二の字点、1−2−22]人嫌ひになり、非社交的な人物になつてしまつた。学校に居る時は、教室の一番隅に小さく隠れ、休業時間の時には、だれも見えない運動場の隅に、息を殺して隠れて居た。でも餓鬼大将の悪戯小僧は、必ず僕を見付け出して、皆と一緒に苛めるのだつた。僕は早くから犯罪人の心理を知つてゐた。人目を忍び、露見を恐れ、絶えずびくびくとして逃げ廻つてゐる犯罪者の心理は、早く既に、子供の時の僕が経験して居た。その上僕は神経質であつた。恐怖観念が非常に強く、何でもないことがひどく怖かつた。幼年時代には、壁に映る時計や箒の影を見てさへ引きつけるほどに恐ろしかつた。家人はそれを面白がり、僕によく悪戯をしてからかつた。或る時、女中が杓文字《しやもじ》の影を壁に映した。僕はそれを見て卒倒し、二日間も発熱して臥てしまつた。幼年時代はすべての世界が恐ろしく、魑魅妖怪に満た
前へ 次へ
全11ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング