《まひる》の太陽に照らされて、夢の闇の中で見るやうに強烈でなく、晝間の殘月のやうにぼんやりしてゐる。情緒の眞のレアリティは、夢の中にのみ實在してゐる。そしてこのことは、夢が何億萬年の古い人類の歴史を、我々の記憶の中に再現することを實證する。おそらく我々は、原始に類人猿の一族から發生した時、未だ理智の悟性が芽生えなかつた。その時人間は、鳥類や獸類と同じやうに、純粹に情緒ばかりで行動して居た。そして鳥類や獸類やは、今でも尚依然として、我々が夢の中で感ずるやうに、世界を「現實《レアル》」に經驗して居るのである。
夢と動物愛 動物の情緒(悲哀や、喜悦や、恐怖やの感情)が、いかに生々《なまなま》しく強烈なものだといふことを、夢の經驗によつて推測するところの人々は、彼等の畜類に對して、自然に同情と理解をもつようになり、基督教的の倫理觀から、動物愛護主義者になる。
夢の起源 夢が性慾の潛在意識だといふフロイドの説は、それのドグマによる彼の夢判斷と共に、私の考へるところでは誤つて居る。おそらく夢の起源は、人間にも動物にも共通して、祖先の古い生活經驗を遺傳してゐるところの、先驗的記憶の再現である。夜
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