]を斷絶して
意志なき寂寥を蹈み切れかし。

ああ 惡魔よりも孤獨にして
汝は氷霜の冬に耐へたるかな!
かつて何物をも信ずることなく
汝の信ずるところに憤怒を知れり。
かつて欲情の否定を知らず
汝の欲情するものを彈劾せり。
いかなればまた愁ひ疲れて
やさしく抱かれ接吻《きす》する者の家に歸らん。
かつて何物をも汝は愛せず
何物もまたかつて汝を愛せざるべし。

ああ汝 寂寥の人
悲しき落日の坂を登りて
意志なき斷崖を漂泊《さまよ》ひ行けど
いづこに家郷はあらざるべし。
汝の家郷は有らざるべし!


 遊園地《るなぱあく》にて

遊園地《るなぱあく》の午後なりき
樂隊は空に轟き
※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉木馬の目まぐるしく
艶めく紅《べに》のごむ風船
群集の上を飛び行けり。

今日の日曜を此所に來りて
われら模擬飛行機の座席に乘れど
側へに思惟するものは寂しきなり。
なになれば君が瞳孔《ひとみ》に
やさしき憂愁をたたへ給ふか。
座席に肩を寄りそひて
接吻《きす》するみ手を借したまへや。

見よこの飛翔する空の向うに
一つの地平は高く揚り また傾き 低く沈み行かんとす。

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