に乘り、烈風の砂礫を突いて國定村に至る。忠治の墓は、荒寥たる寒村の路傍にあり。一塊の土塚、暗き竹藪の影にふるへて、冬の日の天日暗く、無頼の悲しき生涯を忍ぶに耐へたり。我れ此所を低徊して、始めて更らに上州の蕭殺たる自然を知れり。路傍に倨して詩を作る。
監獄裏の林 前橋監獄は、利根川に望む崖上にあり。赤き煉瓦の長壘、夢の如くに遠く連なり、地平に落日の影を曳きたり。中央に望樓ありて、悲しく四方《よも》を眺望しつつ、常に囚人の監視に具ふ。背後《うしろ》に楢の林を負ひ、周圍みな平野の麥畠に圍まれたり。我れ少年の日は、常に麥笛を鳴らして此所を過ぎ、長き煉瓦の塀を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りて、果なき憂愁にさびしみしが、崖を下りて河原に立てば、冬枯れの木立の中に、悲しき懲役の人人、看守に引かれて石を運び、利根川の淺き川瀬を速くせり。
戀愛詩四篇 「遊園地にて」「殺せかし! 殺せかし!」「地下鐵道にて」「昨日にまさる戀しさの」等凡て昭和五――七年の作。今は既に破き棄てたる、日記の果敢なきエピソードなり。我れの如き極地の人、氷島の上に獨り住み居て、そもそも何の愛戀ぞや。過去は
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