童話と教育について
萩原朔太郎

 近頃の子供たちの悦ぶ童話は、昔とすつかりちがつたといふ説がある。今の時代の子供たちは、もはや昔の子供のやうに、フアンタスチツクで荒唐無稽のお伽話――森の妖精の話や、魔法使の話や、赤頭巾の話や、鉛の兵隊の話や、親指太郎の話や、ピノチヨの話や、惡魔が人間に化けた話や――などを悦ばないといふのである。ずつと幼い幼兒は別として、少し歳を取つた今の子供は、その種のお伽話に沒興味であり、彼等の悦ぶものは、もつと現實的で事實に即し、もつと科學的合理性のある童話だといふのである。これを語つた人は、今の子供の知性的進歩を示す證左として、教育上の悦ばしい現象として話をした。だがもし果してさうだとすれば、反對にこれは憂ふべき現象であり、教育上の由々しき大問題であると思ふ。
 今の時代の子供たち、特に現代日本の子供たちが、一昔前の子供に比し、科學に對して著るしい興味を持つてることは事實である。今の子供たちの悦ぶ玩具は、物理學を應用した種々の機械類の模型であり、飛行機や、電信機や、潛水艦やのメカニカルな組立玩具である。彼等の科學智識が一般的に發達してゐることは、一昔前に育つた
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