どんな瞑想をもいきいきとさせ
どんな涅槃にも溶け入るやうな
そんな美しい月夜をみた。
「思想は一つの意匠であるか?」
佛は月影を踏み行きながら
かれのやさしい心にたづねた。
顏
ねぼけた櫻の咲くころ
白いぼんやりした顏がうかんで
窓で見てゐる。
ふるいふるい記憶のかげで
どこかの波止場で逢つたやうだが
菫の病鬱の匂ひがする
外光のきらきらする硝子窓から
ああ遠く消えてしまつた 虹のやうに。
私はひとつの憂ひを知る
生涯《らいふ》のうす暗い隅を通つて
ふたたび永遠にかへつて來ない。
白い雄鷄
わたしは田舍の鷄《にはとり》です
まづしい農家の庭に羽ばたきし
垣根をこえて
わたしは乾《ひ》からびた小蟲をついばむ。
ああ この冬の日の陽ざしのかげに
さびしく乾地の草をついばむ
わたしは白つぽい病氣の雄鷄《をんどり》
あはれな かなしい 羽ばたきをする生物《いきもの》です。
私はかなしい田舍の鷄《にはとり》
家根をこえ
垣根をこえ
墓場をこえて
はるかの野末にふるへさけぶ
ああ私はこはれた日時計 田舍の白つぽい雄鷄《をんどり》です。
囀鳥
軟風のふく日
暗鬱な思惟《
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