+囘」、第4水準2−12−11]と樹木
輪※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]の暦をかぞへてみれば
わたしの過去は魚でもない 猫でもない 花でもない
さうして草木の祭祀に捧げる 器物《うつは》や瓦の類でもない
金でもなく 蟲でもなく 隕石でもなく 鹿でもない
ああ ただひろびろとしてゐる無限の「時」の哀傷よ。
わたしのはてない生涯《らいふ》を追うて
どこにこの因果の車を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]して行かう!
とりとめもない意志の惱みが あとからあとからとやつてくるではないか。
なんたるあいせつの笛の音《ね》だらう
鬼のやうなものがゐて木の間で吹いてる。
まるでしかたのない夕暮れになつてしまつた
燈火《ともしび》をともして窓からみれば
青草むらの中にべらべら[#「べらべら」に傍点]と燃える提灯がある。
風もなく
星宿のめぐりもしづかに美しい夜《よる》ではないか。
ひつそりと魂の祕密をみれば
わたしの轉生はみじめな乞食で
星でもなく 犀でもなく 毛衣《けごろも》をきた聖人の類でもありはしない。
宇宙はくるくるとまはつてゐて
永世輪※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]のわびしい時刻がうかんでゐる。
さうしてべにがら[#「べにがら」に傍点]いろにぬられた恐怖の谷では
獸《けもの》のやうな榛《はん》の木が腕を突き出し
あるいはその根にいろいろな祭壇が乾《ひ》からびてる。
どういふ人間どもの妄想だらう!
暦の亡魂
薄暮のさびしい部屋の中で
わたしのあうむ時計はこはれてしまつた。
感情のねぢは錆びて ぜんまい[#「ぜんまい」に傍点]もぐだらくに解けてしまつた。
こんな古ぼけた暦をみて
どうして宿命のめぐりあふ暦數をかぞへよう。
いつといふこともない
ぼろぼろになつた憂鬱の鞄をさげて
明朝《あした》は港の方へでも出かけて行かう。
さうして海岸のけむつた柳のかげで
首《くび》なし船のちらほらと往き通《か》ふ帆でもながめてゐよう
あるいは波止場の垣にもたれて
乞食共のする砂利場の賭博《ばくち》でもながめてゐよう。
どこへ行かうといふ國の船もなく
これといふ仕事や職業もありはしない。
まづしい黒毛の猫のやうに
よぼよぼとしてよろめきながら歩いてゐる。
さうして芥燒場《ごみやきば》の泥土《でいど》にぬりこめられた
このひとのやうなものは
忘れた暦の亡魂
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