の指は氷砂糖のつめたい食慾
ああ この食慾
子供のやうに意地のきたない無智の食慾。
その襟足は魚である
ふかい谷間からおよぎあがる魚類のやうで
いつもしつとり濡れて青ざめてゐるながい襟足
すべすべと磨きあげた大理石の柱のやうで
まつすぐでまつ白で
それでゐて恥かしがりの襟足
このなよなよとした襟くびのみだらな曲線
いつもおしろいで塗りあげたすてきな建築
そのおしろいのねばねばと肌にねばりつく魚の感覺
またその魚類の半襟のなかでおよいでゐるありさまはどうです
ああこのなまめかしい直線のもつふしぎな誘惑
そのぬらぬらとした魚類の音樂にはたへられない
あはれ身を藻草のたぐひとなし
はやくこの奇異なる建築の柱にねばりつきたい
はやく はやく この解きがたい夢の Nymph に身をまかせて。
春の芽生
私は私の腐蝕した肉體にさよならをした
そしてあたらしくできあがつた胴體からは
あたらしい手足の芽生が生えた
それらはじつにちつぽけな
あるかないかも知れないぐらゐの芽生の子供たちだ
それがこんな麗らかの春の日になり
からだ中でぴよぴよと鳴いてゐる
かはいらしい手足の芽生たちが
さよ
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