乙女のすがたを戀する心にあゆむ
その乙女は薄黄色なる長き肩掛けを身にまとひて
肩などはほつそりとやつれて哀れにみえる
ああこのさびしく灰色なる空の下で
私たちの心はまづしく語り 草ばなの露にぬれておもたく寄りそふ。
戀びとよ
あの遠い空の雷鳴をあなたは聽くか
かしこの空にひるがへる波浪の響にも耳をかたむけたまふか。
戀びとよ
このうす暗い冬の日の道邊に立つて
私の手には菊のすえたる匂ひがする
わびしい病鬱のにほひがする。
ああげにたへがたくもみじめなる私の過去よ
ながいながい孤獨の影よ
いまこの竝木ある冬の日の街路をこえて
わたしは遠い白日の墓場をながめる
ゆうべの夢のほのかなる名殘をかぎて
さびしいありあけの山の端をみる。
戀びとよ 戀びとよ。
戀びとよ
物言はぬ夢のなかなるまづしい乙女よ
いつもふたりでぴつたりとかたく寄りそひながら
おまへのふしぎな麝香のにほひを感じながら
さうして霧のふかい谷間の墓をたづねて行かうね。
その手は菓子である
そのじつにかはゆらしい むつくりとした工合はどうだ
そのまるまるとして菓子のやうにふくらんだ工合はどうだ
指なんかはまことにほつそ
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