ちかく
うれしくも屍蝋のからだを嗅ぎてもてあそぶ
やさしいくちびるに油をぬりつけ すべすべとした白い肢體をもてあそぶ。
そはひとつのさびしい青猫
君よ夢魔におびえて このかなしい戲れをとがめたまふな。
海鳥
ある夜ふけの遠い空に
洋燈のあかり白白ともれてくるやうにしる
かなしくなりて家家の乾場をめぐり
あるいは海岸にうろつき行き
くらい夜浪のよびあげる響をきいてる。
しとしととふる雨にぬれて
さびしい心臟は口をひらいた
ああ かの海鳥はどこへ行つたか。
運命の暗い月夜を翔けさり
夜浪によごれた腐肉をついばみ泣きゐたりしが
ああ遠く飛翔し去つてかへらず。
眺望
旅の記念として、室生犀星に
さうさうたる高原である
友よ この高きに立つて眺望しよう。
僕らの人生について思惟することは
ひさしく既に轉變の憂苦をまなんだ
ここには爽快な自然があり
風は全景にながれてゐる。
瞳《め》をひらけば
瞳は追憶の情侈になづんで濡れるやうだ。
友よここに來れ
ここには高原の植物が生育し
日向に快適の思想はあたたまる。
ああ君よ
かうした情歡もひさしぶりだ。
蟾蜍
雨景の
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