で言へば、その上位に属して居る。
この温泉の空気を代表する浴客は、主として都会の中産階級の人であるが、とりわけさうした人たちの若い夫人や娘たち――と言つても、大磯や鎌倉で見るやうな近代的な、中凹みで睫毛の長い表情をした娘たちではない。矢張、不如帰の女主人公を思はせるやうな、少しく旧式な温順さをもつた、どこか病身らしい細顔の女たち――である。前に伊香保の愛顧者は女性に多いと言つたが、つまりその女性とはかういつたやうな、中庸的の夫人や娘たちである。不思議に伊香保といふ所は、何から何まで女性的であり中庸的である。
最近、私の友人で伊香保へ来た人には、前田夕暮君と室生犀星君がある。谷崎潤一郎君と始めて逢つたのも此所であつた。この人たちの伊香保に対する批評は概して可もなく不可もなしといふ所であらう。
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子持山若かへる手の紅葉まで我はねもとおもふ汝は何ぞと思ふ 万葉集
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底本:「日本随筆紀行第五巻 関東 風吹き騒ぐ平原で」作品社
1987(昭和62)年10月10日第1刷発行
底本の親本:「萩原朔太郎全集 第八巻」筑摩書房
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