石段上りの街
萩原朔太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)山巒《さんらん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)好い温泉[#「好い温泉」に傍点]
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私の郷里は前橋であるから、自然子供の時から、伊香保へは度々行つて居る。で「伊香保はどんな所です」といふやうな質問を皆から受けるが、どうもかうした質問に対してはつきりした答をすることはむづかしい。併し簡単に言へば、常識的の批判からみて好い温泉[#「好い温泉」に傍点]である。ここに常識的といつたのは、自然や設備の上で中庸といふ好みを意味して居る。だから特別の新らしい趣味で、赤城や軽井沢のやうな高原的風望を好いといふ人や、反対に少し古い趣味で塩原のやうなアカデミツクの景色――山あり、谷あり、滝あり、紅葉ありといつたやうな景色――を悦ぶやうな人や、その他特別の意味での情趣をたづねるやうな人には、伊香保はあまり好かれない温泉である。併しその特別の奇がないだけ、それだけ感じの落付いたおつとり[#「おつとり」に傍点]した所でもある。平凡と言つた所で、決していやな感じがする平凡ではない。言は
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