ろいろ「持ち腐れ」になつてしまつた。その當時の詩壇から見て、可成に新奇で鮮新な發明であつた特種のスタイルなども、今日では詩壇一般の類型となつて居て、むしろ常套の臭氣が鼻につくやうにさへなつて居る。さういふ古い自分の詩を、今更ら今日の詩壇に向つて公表するのは、ふしぎに理由のない羞恥と腹立たしさとを感ずるものである。
五。附録の論文「自由詩のリズムに就て」は、この書物の跋と見るべきである。私の詩の讀者は勿論、一般に「自由詩を作る人」、「自由詩を讀む人」、「自由詩を批評する人」、「自由詩を論議する人」特に就中「自由詩が解らないと言ふ人」たちに讀んでもらふ目的で書いた。自由詩人としての我々の立場が、之れによつて幾分でも一般の理解を得ば本望である。
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幻の寢臺
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薄暮の部屋
つかれた心臟は夜《よる》をよく眠る
私はよく眠る
ふらんねるをきたさびしい心臟の所有者だ
なにものか そこをしづかに動いてゐる夢の中なるちのみ兒
寒さにかじかまる蠅のなきごゑ
ぶむ ぶむ ぶむ ぶむ ぶむ ぶむ。
私はかなしむ この白つぽけた室内の光線を
私はさびしむ この力のない生命の韻
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