ああ遠く消えてしまつた 虹のやうに。

私はひとつの憂ひを知る
生涯《らいふ》のうす暗い隅を通つて
ふたたび永遠にかへつて來ない。


 白い牡鷄

わたしは田舍の鷄《にはとり》です
まづしい農家の庭に羽ばたきし
垣根をこえて
わたしは乾《ひ》からびた小蟲をついばむ。
ああ この冬の日の陽ざしのかげに
さびしく乾地の草をついばむ
わたしは白つぽい病氣の牡鷄《をんどり》
あはれな かなしい 羽ばたきをする生物《いきもの》です。

私はかなしい田舍の鷄《にはとり》
家根をこえ
垣根をこえ
墓場をこえて
はるかの野末にふるへさけぶ
ああ私はこはれた日時計 田舍の白つぽい牡鷄《をんどり》です。


 自然の背後に隱れて居る

僕等が藪のかげを通つたとき
まつくらの地面におよいでゐる
およおよとする象像《かたち》をみた
僕等は月の影をみたのだ。
僕等が草叢をすぎたとき
さびしい葉ずれの隙間から鳴る
そわそわといふ小笛をきいた。
僕等は風の聲をみたのだ。

僕等はたよりない子供だから
僕等のあはれな感觸では
わづかな現はれた物しか見えはしない。
僕等は遙かの丘の向うで
ひろびろとした自然に住ん
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