第4水準2−12−11、309−12]り逢ふかも解らない仇敵《かたき》を探して、あてもなく國國を彷徨《さまよ》ひ歩き、偶然の奇蹟を祈りながら、生涯を疲勞の旅に死んでしまふ。
昔のしをらしい娘たちは、かうした悲しい物語を、我が身の上にひき比《くら》べ、行燈の暗い灯影で讀み耽つた。同じやうにまた、今日《けふ》の新時代の娘たちが、活動寫眞や劇場の座席の隅で、ひそかに未來の良人を空想しながら、二十世紀の草双紙を讀み耽つて居る。その新しい草双紙で、ヴアレンチノや林長二郎のやうな美男が扮する、架空の人物を現實の夢にたづねて、いぢらしくも處女《をとめ》の胸をときめかして居る。そして目算もなく、計畫もなく、偶然の※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11、310−8]合のみを祈りながら、追剥の出る街道や、辻堂や笹原のある景色の中を、悲しく寂しげに漂泊して居る。昔の物語の作者たちは、さうした悲しい數數の旅行の後で、それでも、漸く最後に取つて置きの籤《くじ》をひかせて、首尾よく願望を成就させた。だが若し、現實の人生がさうでなければ! そもそも如何に。女のいぢらしさは無限である。
父
父は
前へ
次へ
全85ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング