やないか。
青春よ! 我我もまた鳥のやうに飛ばうと思ふ。けれども聽け! だれがそこに隱れてゐるのか? 戸の影に居て、啄木鳥《きつつき》のやうに叩くものはたれ? ああ君は「反響《こだま》」か。老いたる幽靈よ! 認識の向うに去れ!
女のいぢらしさ
「女のいぢらしさは」とグウルモンが言つてる。「何時《いつ》、何處《どこ》で、どこから降つて來るかも知れないところの、見たことも聞いたこともない未來の良人を、貞淑に愼《つつ》ましく待つてることだ。」と。
家の奥まつた部屋の中で、終日《ひねもす》雀の鳴聲を聽きながら、優しく、惱ましく、恥かしげに、思ひをこめて針仕事をして居る娘を見る時、私はいつもこの抒情味の深い、そして多分に加特力教的な詩人の言葉を思ひ起す。
いぢらしくもまた、私の親しい友が作つた、日本語の美しい歌を一つ。
[#ここには室生犀星の詩が引用されている]
若い未婚の娘たちは、情緒の空想でのみ生活して居る。丁度彼女等は、昔の草双紙に物語られてる、仇敵討ちの武士みたいなものである。その若く悲しい武士たちは、何時《いつ》、何處《どこ》で、如何にして※[#「えんにょう+囘」、
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