情する小説家だ――と言つたけれ共、それが何等芥川[#「芥川」に丸傍点]君に対する侮蔑でなく、反対に高い程度の尊敬と愛情とで、あの人の悲壮な精神に感激を込めた言であるのは、常識を有する限り[#「常識を有する限り」に傍点]、だれでもあの文章の読者に解る筈だ。僕は文藝春秋子の毒舌をよんで先づ「常識家の非常識」といふことを考へた。
 所が二月号の同じ雑誌に、同じ文藝春秋子がまた僕の毒舌を、僕の新潮所載の文(室生犀星[#「室生犀星」に丸傍点]に与ふ)について書いてる。それによると、僕のあの文章は室生[#「室生」に丸傍点]君の旧悪をあばいたもので、故意に友人を陥入れ、他人の過去を恥かしめ、以て独り自ら正義を売らうとするものであるさうだ。何たる意外の言だらう。之れにもまた僕は呆然としてしまつた。僕にとつてみれば、室生[#「室生」に丸傍点]君の過去は一の英雄的生活であつた故に、その回想を書くことは、友の伝記における讃美であつた。僕はあの文章の前半を、伝記記者の熱情と讃美で書いた。そしてその精神は、常識を有する限り[#「常識を有する限り」に傍点]、どんな読者にも解る筈だ。僕は室生[#「室生」に丸傍点]君
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