余人の読者に読まれたこの小著が、長い間の悪い時代を忍びながらも、かかる今日の時潮を先駆して呼ぶために、多少の予言的責務を尽したかも知れないことに、著者としての自慰を感じて此所《ここ》に序文を書くのである。

  西暦一九三八年五月
[#地から2字上げ]著者
[#改ページ]

       ――読者のために――

[#ここから2字下げ]
 この書物は断片の集編ではなく、始めから体系を持って組織的に論述したものである。故《ゆえ》に読者に願うところは、順次に第一|頁《ページ》から最後まで、章を追って読んでもらいたいのである。中途から拾い読みをされたのでは、完全に著者を理解することができないだろう。
 各章の終に附した細字の註《ちゅう》は、本文の註釈と言うよりは、むしろ本文において意を尽さなかった点を、さらに増補して書いたのである。故に細字の分も注意して読んでいただきたい。『詩の原理』について、自分が始めて考え出したのは、前の書物『新しき欲情』が出版された以前であって、当時既に主題の一部を書き出していた。したがってこの書の思想の一部分は、前の書物『新しき欲情』の中にも散在している。
 この書は
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