あの悲痛な師弟は、最後に喧嘩《けんか》をしてしまったのか。けだしこの悲劇は、弟子が師の「詩」を理解し得ず、師が弟子の「散文」を読まなかったという、気質の避けがたい運命にあったのだ。
プラトンについて思惟《しい》されるのは、何よりも彼が詩人であったということである。彼に於ては、冷たい、氷結した、純理的のものを考えることができなかった。彼のイデヤは詩的であり、情味の深い影を帯びた、神韻|縹渺《ひょうびょう》たる音楽である。これに反してアリストテレスは、気質的の学者であって、古代に於ける典型的の学究である。彼には詩的な情趣が全く無かった。故に彼の哲学した実在は、純然たる理智的の概念であり、冷たい、没情味の、純学術上の観念だった。即ち換言すれば、アリストテレスの観念は純理的の意味であって、プラトンのそれは宗教的の意味である。プラトンにあっては、イデヤが感情の中に融《と》かされ気分の情趣ある靄《もや》でかすんでいる。故にアリストテレスの純理を以て、これを理解することは不可能だった。そこでは感情と智慧が融化しており、分離することができないのだ。
このプラトンの観念こそ、それ自ら文芸上に於ける主
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