て、これ等の区別を判然とするであろう。
第四章 抽象観念と具象観念
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前章に述べた如く、主観主義の芸術は「観照」でなく、現実の充たされない世界に於て自我の欲情する観念《イデヤ》(理念)を掲げ、それへの止《や》みがたい思慕からして、訴え、歎《なげ》き、哀《かな》しみ、怒り、叫ぶところの芸術である。故《ゆえ》に世界は彼等にとって、現にある[#「ある」に傍点]ところのものでなくしてあるべきところのものでなければならないのだ。
ではその「あるべきところの世界」は何だろうか。これすなわち主観の掲げる観念《イデヤ》であって、各々の人の気質により、個性により、境遇により、思想により、それぞれ内容を別にしている。そして各々の主観的文学者は、各々の特殊な観念《イデヤ》から、各自の「夢」と「ユートピア」とを構想し、それぞれの善き世界を造ろうと考えている。しかしながらこのイデヤの中には、概念の定義的に明白している、極《きわ》めて抽象的な観念《イデヤ》もあるし、反対に概念の殆《ほとん》ど言明されないような、或る縹渺《ひょうびょう》たる象徴的、具象的な観念《イデヤ》もあ
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