2

 和歌と俳句とは、日本の詩に於ける二つの代表的な形式であり、かつ最も著るしいコントラストである。すべての詩を愛する日本人は、この二つの詩に於ける特殊のものを、対照のコントラストに於て知っているだろう。実に和歌と俳句の相違は、詩に於けるディオニソスとアポロの対照である。即ち和歌の詩情は感傷的、感激的で、或るパッショネートな、情火の燃えあがっているものを感じさせる。これに反して俳句は、静かに落着いて物を凝視し、自然の底にある何物かを探《さぐ》ろうとする如き、智慧《ちえ》深い観照の眼をもっている。また和歌のあたえる陶酔は、情緒的でメロディアスのものであるのに、俳句の魅惑はこれとちがって、もっと枯淡的に澄み入っている、含蓄の深い情趣である。
 されば和歌と俳句の相違は、詩に於ける音楽と美術の対照であり、また浪漫派と写実派の対照である。前者はロマンチックで感傷的に行こうとし、後者はレアリスチックで静観的に行こうとする。しかも吾人《ごじん》の知っている限り、俳句の如く観照的で、俳句の如くレアリスチックの詩は、世界に殆《ほとん》ど比類がない。西洋の詩や支那《しな》の詩やは、どんな静観的
前へ 次へ
全334ページ中236ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング