げにそれは夜明けんとする時の最初の鶏鳴であつた。――そして、実に私はこの詩集に対する最大の自信が此所にある。
  千九百二十二年二月
[#地付き]著者
[#改段]

 竹とその哀傷[#「竹とその哀傷」は太字]


地面の底の病気の顔

地面の底に顔があらはれ、
さみしい病人の顔があらはれ。

地面の底のくらやみに、
うらうら草の茎が萌えそめ、
鼠の巣が萌えそめ、
巣にこんがらかつてゐる、
かずしれぬ髪の毛がふるえ出し、
冬至のころの、
さびしい病気の地面から、
ほそい青竹の根が生えそめ、
生えそめ、
それがじつにあはれふかくみえ、
けぶれるごとくに視え、
じつに、じつに、あはれふかげに視え。

地面の底のくらやみに、
さみしい病人の顔があらはれ。


草の茎

冬のさむさに、
ほそき毛をもてつつまれし、
草の茎をみよや、
あをらみ茎はさみしげなれども、
いちめんにうすき毛をもてつつまれし、
草の茎をみよや。

雪もよひする空のかなたに、
草の茎はもえいづる。




ますぐなるもの地面に生え、
するどき青きもの地面に生え、
凍れる冬をつらぬきて、
そのみどり葉光る朝の空路に、
なみだ
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