て無関心で居ることを装はうとして、無理な努力から固くなつて居た。そのくせ内心では、かうした人気のない山道で、美しい娘等と道づれになり、一口でも言葉を交せられることの悦びを心に感じ、空想の有り得べき幸福の中でもぢもぢ[#「もぢもぢ」に傍点]しながら。
私は女等を追ひ越しながら、こんな絶好の場合に際して機会《チヤンス》を捕へなかつたことの愚を心に悔いた。
だが丁度その時、偶然のうまい機会が来た。私が汗をぬぐはうとして、ハンケチで額の上をふいた時に、帽子が頭からすべり落ちた。それは輪のやうに転がつて行つて、すぐ五六歩後から歩いて来る、女たちの足許に止まつた。若い方の娘が、すぐそれを拾つてくれた。彼女は恥ぢる様子もなく、快活に私の方へ走つて来た。
「どうも……どうも、ありがたう。」
私はどぎまぎ[#「どぎまぎ」に傍点]しながら、やつと口の中で礼を言つた。そして急いで帽子を被り、逃げ出すやうにすたすた[#「すたすた」に傍点]と歩き出した。宇宙が真赤に廻転して、どうすれば好いか解らなかつた。ただ足だけが機械的に運動して、むやみに速足で前へ進んだ。
だがすぐ後の方から、女の呼びかけてくる声を
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