ウォーソン夫人の黒猫
萩原朔太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)良人《おっと》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)面白|可笑《おか》しく

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)てきぱき[#「てきぱき」に傍点]と働らいていた。
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 ウォーソン夫人は頭脳もよく、相当に教育もある婦人であった。それで博士の良人《おっと》が死んで以来、或《あ》る学術研究会の調査部に入り、図書の整理係として働らいていた。彼女は毎朝九時に出勤し、午後の四時に帰宅していた。多くの知識婦人に見る範疇《はんちゅう》として、彼女の容姿は瘠形《やせがた》で背が高く、少し黄色味のある皮膚をもった神経質の女であった。しかし別に健康には異状がなく、いつも明徹した理性で事務を整理し、晴れやかの精神でてきぱき[#「てきぱき」に傍点]と働らいていた。要するに彼女は、こうした職業における典型的の婦人であった。
 或る朝彼女は、いつも通りの時間に出勤して、いつも通りの事務を取って
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