岸の土堤の上を私共について走つて來た。私達は燕のやうに河を下つて行つた。娘達は裾をからげ、素足を見せ、息を切らして走つて來た。最後までついて來たのは三人の美人とその他二人であつた。が、それ等も弱つた時、先頭に進んで居た三人の内の一人が、木の切り株の上にのつて、船の私達に向つて、自分の手をキスして送つた。デイヤナの神と雖も、――むしろヴイナスらしい處の方が多くはあつたが――こんな優しい素振りを、これほど優しくして見せる事は出來なかつたであらう。その美人は言つた、「また歸つて入らつしやいネ」と、すると一同も聲を揃へて同じ事を言つた、オルニイのまはりの小丘もみな「歸つて入らつしやいネ」といふ言葉を反響した。併し河は目ばたきをする間に角を曲つてしまつた。そして私達はただ緑の樹木と走る水と共にあるのみであつた。
「また歸つて入らつしやいネ」とや、若き婦人達よ、人の世の早瀬には歸つて來ることはない。
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「あき人は船乘の星にぬかづき
農夫は太陽に依つて季節を知る」
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吾れ等はみな自分の懷中時計を、運命の時計に依つて定めなければならぬ。勢猛く進む瀬は、一
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