偶然の産んだ駄洒落
九鬼周造
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)駄洒落《だじゃれ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)アマノ[#「アマノ」に白丸傍点]
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駄洒落《だじゃれ》を聞いてしらぬ顔をしたり眉をひそめたりする人間の内面生活は案外に空虚なものである。軽い笑《わらい》は真面目な陰鬱《いんうつ》な日常生活に朗《ほがら》かな影を投げる。ある日、私がパリで散髪をしていると理髪師が私に向ってデ・ジャポネー(日本人)は騎兵は要らぬそうですねといった。何のことかと聞くとデジャ(既に)ポネー(小馬)だからといった。人を馬鹿にしているこの駄洒落は異郷の旅愁をかえって慰めてくれた。旅愁は人生の旅にもおそいかかってくる。軽い駄洒落も時には悪くない。ポール・ヴァレリイは同韻の二つの言葉を双児《ふたご》の交わす微笑に譬《たと》えている。偶然の戯れが産んだ三つ児を二組紹介しても別に誰も咎《とが》める者はないだろう。
その一つは既に新聞に載ったこともあるからある人々には旧聞に属するかも知れない。和辻哲郎君がまだ京都にいた頃のことである。西田幾多
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