かれいの贈物
九鬼周造

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)寛《くつろ》いだ

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(例)b'[#「b'」は縦中横]
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 十二月も半ば過ぎた頃であった。村上は友人の山崎を自宅の昼飯に招いた。独身者同様の村上は時にこうして十五ばかり年下の山崎と会食をしながら寛《くつろ》いだ気もちで談笑するのが好きであった。年齢の相違もあるので二人の間には師弟といったような感覚も交っていた。村上が二階の書斎で手紙を書いていると女中が山崎の来たことを告げながら
「これを頂戴いたしました」
といって干鰈《ほしがれい》の沢山入った籠《かご》を見せた。約束の時間よりも少し早かったので、遠慮のない間柄であるから主人は「ちょっとお待ち下さい」といわせて急ぎの手紙を書き終えてから下へ降りた。
「お待たせした。どうも今は結構なものをありがとう」
「実は国許へ帰っている妻から今朝送ってきましたのでちょうどいいから先生に差上げたいと思ってもってまいりました。笹がれいと若狭《わかさ》では呼んでおります。お口に合うかどうかわかりませんが」
「それは
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