@模様の形式は形状のほかになお色彩の方面をもっている。碁盤縞が市松《いちまつ》模様となるのは碁盤の目が二種の異なった色彩によって交互に充填《じゅうてん》されるからである。しからば模様のもつ色彩はいかなる場合に「いき」であるか。まず、西鶴《さいかく》のいわゆる「十二色のたたみ帯」、だんだら染、友禅染《ゆうぜんぞめ》など元禄時代に起ったものに見られるようなあまり雑多な色取《いろどり》をもつことは「いき」ではない。形状と色彩との関係は、色調を異にした二色または三色の対比作用によって形状上の二元性を色彩上にも言表わすか、または一色の濃淡の差あるいは一定の飽和度《ほうわど》における一色が形状上の二元的対立に特殊な情調を与える役を演ずるかである。しからばその際用いられる色はいかなる色であるかというに、「いき」を表わすのは決して派手な色ではあり得ない{3}。「いき」の表現として色彩は二元性を低声に主張するものでなければならぬ。『春色恋白浪《しゅんしょくこいのしらなみ》』に「鼠色[#「鼠色」に傍点]の御召縮緬《おめしちりめん》に黄柄茶[#「黄柄茶」に傍点]の糸を以て細く小さく碁盤格子を織|出《いだ》し
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