A下流の三に分って描いている。なお仏教語として品を呉音《ごおん》で読んで極楽浄土の階級性を表わす場合もあるが、広義における人事関係と見て差支ない。上品、下品の対立は、人事関係に基づいて更に人間の趣味そのものの性質を表明するようになり、上品とは高雅なこと、下品とは下卑《げび》たことを意味するようになる。
 しからば「いき」とこれらの意味とはいかなる関係に立っているであろうか。上品は人性的一般存在の公共圏に属するものとして、媚態とは交渉ないものと考えられる。『春色梅暦《しゅんしょくうめごよみ》』に藤兵衛の母親に関して「さも上品なるそのいでたち」という形容があるが、この母親は既に後家になっているのみならず「歳《とし》のころ、五十歳《いそじ》あまりの尼御前《あまごぜ》」である。そうして、藤兵衛の情婦お由《よし》の示す媚態とは絶好の対照をなしている。しかるにまた「いき」は、その徴表中に「意気地《いきじ》」と「諦め」とを有することに基づいて、趣味の卓越として理解される。したがって、「いき」と上品との関係は、一方に趣味の卓越という意味で有価値的であるという共通点を有し、他方に媚態の有無《うむ》という
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