仕事を止めて運んだ土を元とへ持つて往け、持つて往かなければ縣廳が此方でやる、之を法律でやる、さうして其費用は取るぞ、夫は成程惡いことをすれば人民に其法律を用ひて宜しいことがあるかも知れぬ、何を惡いことをして居る、何を惡いことをして居るのであるか、殊更其法律を持出して其人民の衣食を奪つて困らせて、其土地を奪はんければ止まないと云ふことで、來る二十七日迄に堤防を築いたのを取崩せ、それをやらなければ此方から人夫を差向けると云ふ書面が、去る十三日に仕事をして居る者の所へ飛んで來た、此中でございますから役に立たぬでも私が村に居つて皆と相談しなければならぬのでございますけれども、それより此事を御訴へ申すのが非常な必要と考へまして今日は出ましたのでございます。(拍手喝采)

     △殘酷も亦甚し[#「殘酷も亦甚し」に丸傍点]

 今日矢鱈に堤防を築いては外の障りになりますから河川法に於て八釜敷く云ふのは無理のないことで、河川法に觸れゝば惡いと云ふのは無理のないことである、無理のないことでございますけれども何も細い堤防を築いたから之が河川法に他の妨害を與へるやうなものでも何でもない、又此堤防も普通の堤防と名が付きますれば河川法に害を加へることも出來て來ます、急水止と云ふのは堤防でない、一時水を防ぐ、所謂浸水です、水の浸入することを一時防ぐに過ぎないのを急水止と云ふ、過つて手なり足なりを刄物を以て斬る、血が出る、醫師を頼んで來て願ひます、醫師一人が馳せて往く、其間血を垂して居るものは手拭で卷く、之が急水止、それから醫師が來てから本當に療治する、此本法[#「法」に「〔當〕」の注記]の療治をする時は法律に觸れないやうにしなければならぬ、血止を自分の手でやる時に之が惡いと云ふに至つては殘酷も亦甚しいことでございます、(拍手起る)田の畔同樣の一の荒い浪が來れば倒れる、細い堤防が、之が河川法に觸れゝば指で筋を付けても河川法に觸れることになる、何か名を付けて窘める種を拵へて人民を責め付けて盡く買收に應じさせ、盡く一人も殘らず村を買收して仕舞ふまでは此堤防は何處迄も妨害すると云ふことを口で云つて居る、今日は餘程惡黨奴等が正直になつて皆饒舌つて仕舞ふ。

     △買收の目的は何にありや[#「買收の目的は何にありや」に丸傍点]

 それからさうなれば村を取つて仕舞へばどうするのであるか、貯水地
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