でないと云ふ惡口を云ふが、どんな小さなものでもどんな樣のものでも用ひて七萬六千圓の收穫を取つた、縣廳の力で十萬圓掛けて出來ぬことを、縣廳の力で陸軍の馬糧麥に應ずることが出來ぬのを人民は二千九百圓で戰爭の御用を足した、縣廳の力で百二十萬圓掛けなければ安心が付かないものを二千九百圓で半年の安心が付いた、是が表から見ますと如何にも波が荒い所で堤防を現在見てもあの通り碎けて居る如く見へますが、之は皆拵へたものでありまして左程困難な譯ではない。

     △十五萬圓の純益[#「十五萬圓の純益」に丸傍点]

 されば何程掛ければ堤防が完全に出來るかと云ふ御尋がございますれば凡そ一年二萬圓掛けましたら宜しい、年々二萬圓掛けてすれば立派な堤防になります、二萬圓掛けて何程の收穫があるかと云へば二十萬圓の上に出る、其中勞銀を取りましても十五萬圓の純益を得る、如何でございます、二萬圓掛けて十五萬の純益を得る、堤防費の資本である、資本を二萬圓出せば十五萬圓の純益を得る、斯ふ云ふ利益の多いことは世の中にない、何故にさう云ふ風に利益が多いかと云へば前の政府が四百年の間丹精を込めて積み立つた堤防の三百五十萬圓の價のある者がチヤンと周つて居る、(拍手起る)恰も親が家を造つて呉れたから子息の代になつて家賃を取ると同じで、屋根が剥れる、地震で曲る、それを手入さへすれば年々千圓百圓の家賃が取れる、前の政府の賜物の三百五十萬圓と開墾した富がチヤンとございますから、今は利益を取る計りになつて居りますから、僅か修繕費を二萬圓一年に掛ければ二十萬圓取れる許りになつて居るのを之を破壞する、諸君能く私は御訴へ申す積りでございますれども何分疲勞致して居りますから嘸御聽き苦しうございませうが、左樣な次第でございまして、一體此堤防に對する政府の責任と云ふものは復舊の工事をするにあるのです。

     △堤防取崩の命[#「堤防取崩の命」に丸傍点]

 人民は其村に居つて納税兵役の法律上の義務、其他吾々社會に大なる利益を與へて何も罪のない人民がそこに居る、是に堤防を築かないで三十五年以來原形に復することをしないで居つて、さうして人民を困らせて――困らせに困らせて責めて往つて、此度此麥を苅らずに明日村を立退けと云ふ、それも今蒔いて居る麥を取つて食べたいと云ふので細い堤防を築いてなりともやつて居る、其工事に對して不埒だから其
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