て居ると、之を縣廳から差止めの役人が來る、御理解は御尤か何だか分りませぬが何が惡いのでございませうか、麥を取つて何が惡いのでございませうか、昨年も貴方君吾々が麥を取るのを御妨げで厶いましたけれども昨年からも細い堤防を築いて麥丈を取りました、昨年は麥を取つた結果で幾分か御用が參りまして戰爭の馬糧麥を二百石程獻じました、徴發に應じました、又今日と雖も租税を拂つて居ります、今日と雖も兵隊を出して居ります、馬を寄越せと云へば馬を上げます、昨年吾々の築いた堤防で麥の徴發に應じてある程で厶いますからどうぞ當年も細くも築かして呉れんならぬのに御差止の譯ですか、差止める譯でもないが、相成らぬ、彼是押合つて居ります中に近頃になりまして、河川法に觸れて居ると云つて嚴重なことを書いたものを達して來ました、河川法第十八條に依るとか何條に依るとか云つて、來る二十七日迄に彼の堤防を取拂つて仕舞へ、若し取拂はなければ官自から其堤防を片付ける、片付けて其費用は貴樣達から徴收する、斯う云ふことを書いて寄越しました、是はマア何とも早や言語に絶つて居るとか何とか云ふことでございませうが、何たることでございませうか。
△堤防の破壞[#「堤防の破壞」に丸傍点]
止むことを得ない堤防の御話も少々しなければなりませぬが、谷中村に對する堤防丈の御話を致しますと、谷中村と云ふ村は尤も周圍が堤防で、三里十八町を堤防を以て巡つて居る、赤間沼と云ふ沼がある、之が淺い、是がどうも壞れ易くなつて居る、けれども私が近來見まするに左程至難な堤防ではない、何となれば斯う云ふことがございます、三十五年に堤防が切れました、時に縣會が議決しまして其切付けを防ぐに付いて追々に金を支出致しました、僅か八十五間の切付けを防ぐに付いて縣會が金を出しましたのが三度に十萬圓の金を出した、十萬圓の金を三十六七年に掛けて十萬圓の金を出して僅なる八十五間の切口が塞ぎ得なかつた、夫から八十五間の口が十萬圓の金で塞ぎ得ないと云ふ評判を私共聞いて其所へ參つて見ますと云ふと、如何にも口が塞ぎ切れぬで、左右の堤防が八百間許り波で壞れて居る、酷い有樣に壞れて居るから之は成程波の荒い所だ、成程十萬兩掛けて此僅か八十五間の口が塞げぬ所で仕樣がないと私も欺された、三十七年に參つて更に其波の荒きことに驚いた、如何にも堤防を築くに骨が折れるなと私も一度欺かれた
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