て好んでする質問でも無いのに、何故今日まで之を停止しないのであるか、何か答辯が出來るつもりで居るのか。それとも地方の無頼漢或は郡吏等を頼んで拇印を取れば其れで用が濟んだと思ふて居るのか。被害人民を悉く欺きおほせても國家は承知しない。被害人民が悉く二十錢三十錢の金で誑かされて判を捺しても、そんな事は國家は知らぬ、國家が承知しない。國家は大體に立つて利害の比較を見、人民の權利を何處までも保護するのである、政府が保護しなければ吾々が保護するのである。政府は帝國憲法に、「日本臣民は所有權を侵さるゝ事なし。」と明記しあることを知れる乎。鑛業條例には、「試掘の事業公益に害ある時は所轄鑛山監督署長、採掘に就ては農商務大臣、既に與へたる認可若くは特許を取消す事を得。」とある。是だけの公益を保護し臣民を保護する所の憲法々律が顯著なるにも拘らず、此の人民を保護しない。人民を保護しなければ、人民は法律を守る義務が無い。法律を守る義務が無いどころではない、政府から強て無罪なる人民に法律を守ることの出來ない樣な事を仕向けて居るのでございます。斯樣な譯でございます。政府が法律を以て人民を保護しない、公益を保護しない。人民は法律を守るの義務が無い、又た義務なからしめたのである。故に本員等は議院法に依て質問を致しましたのでございます。大臣は帝國憲法第五十五條に依り責任を以て大臣らしき御快答あらんことを望むのである。皆樣に長く御迷惑を掛けましたことを御詫び致します。



底本:「田中正造之生涯」國民圖書
   1928(昭和3)年8月20日発行
※「兩」と「両」、「囘」と「回」、「蟲」と「虫」など、旧字(古字)と新字の混在は、底本通りとしました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※疑問点の確認にあたっては、「田中正造全集 第七巻」岩波書店、1977(昭和52)年6月6日発行を参照しました。
入力:林 幸雄
校正:富田倫生
2003年5月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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