のとは其處で分かれる。毒水を被らない方の粉では、團子を拵らへ燒餅を拵らへると云ふことが出來るが、毒水を被つた方のは粉に粘力が無くなつて、團子にも燒餅にもならない。ならなければ之を捨てゝ了はなければならないが、そこが悲しいかな、矢張り味噌汁や何かへぶち込んで蕎麥掻のやうにして喫べる。之を食べるに諸君、毒と云ふ事を知らずして喫べる者が大分あります。中には知つて居ても貧乏に驅られて之を食ふものがある。實にひどい有樣で、其のひどい有樣の御話をするのぢやない、此の毒の這入つた水と這入らない水が此に至つて分れる。又た藁も然うでございます、藁が一杯に腐つて了ふ。此の鑛毒の這入らない藁は肥料になる、鑛毒の水の這入つた藁は肥料にならない。肥料にならないのみならず之を灰に焚いても殆ど番茶の樣なものが出來て少しも灰の樣に見へないのでございます。其の鑛毒と鑛毒で無いと云ふ事は、能く其土地の者は知つて居りますので、是も一々御覽に入れる譯には參りませぬが(此時實物を示す)、唯だ此中で一々御覽に入れるのは忙しうござりますから出來ませぬが、鑛毒の這入つた腐れ藁を焚きますると斯う云ふ灰が出來る。是は一號より二十號まで出品がござりますけれども、是等は養蠶に御熱心の方も多いのでございますから御覽に入れまするが、鑛毒の這入つた桑の葉と鑛毒の這入らない洪水を被つた桑の葉で、此鑛毒の這入らない桑の葉は申上げるまでもない當り前の葉で、鑛毒の這入つた葉は斯う云ふ色になる、すつぱり一目して明に御分りになることでござります。又た是等は鑛毒の這入つた胡麻です。是は稻の洗いたるもの、其他色々御覽に入れますから談話室に於て諸君の御一覽を願ひます。
 人口の方はどうだと申しますれば、家の中に毒水が這入る分は、群馬栃木茨城埼玉四縣で一萬六千四百七十戸其人口九萬八千八百八十人。是れは家の中に毒水が這入つた。其外群馬縣に於ては桐生町の新宿境の両町のやうな處では井戸に毒水が這入るでは無くして、渡良瀬の水を引いて飮用水にして居る、之を合せますれば十一萬人ばかりになるですが、是は井戸の數の取調が付きませぬから今日申しませぬが、家の中に這入る分だけで九萬八千八百八十人と御記憶を願ひます。斯の如き問題を當局者は何故に棄て置くのでありませう。當局者が棄て置きましても、他の各省が何故に、租税に關する事舟楫及び教育に關する事權利に關する事――之を
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