し、蔭ながら私も祈ります、何うぞ以前の録さんにお成りなされて、お立派にお店をお開きに成ります處を見せて下され、左樣ならばと挨拶すれば録之助は紙づゝみを頂いて、お辭儀申す筈なれど貴孃のお手より下されたのなれば、あり難く頂戴して思ひ出にしまする、お別れ申すが惜しいと言つても是れが夢ならば仕方のない事、さ、お出なされ、私も歸ります、更けては路が淋しう御座りますぞとて空車引いてうしろ向く、其人《それ》は東へ、此人《これ》は南へ、大路の柳月のかげに靡《なび》いて力なささうの塗り下駄のおと、村田の二階も原田の奧も憂きはお互ひの世におもふ事多し。
[#地から2字上げ](明治二十八年十二月「文藝倶樂部」臨時増刊 閨秀小説)



底本:「日本現代文學全集 10 樋口一葉集」講談社
   1962(昭和37)年11月19日第1刷発行
   1969(昭和44)年10月1日第5刷発行
入力:青空文庫
校正:米田進、小林繁雄
1997年10月15日公開
2004年3月18日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作ら
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