《かゝ》るかといたまし。雨《あめ》は何時《いつ》も哀《あは》れなる中《なか》に秋《あき》はまして身《み》にしむこと多《おほ》かり、更《ふ》けゆくまゝに灯火《ともしび》のかげなどうら淋《さび》しく、寝《ね》られぬ夜《よ》なれば臥床《ふしど》に入《い》らんも詮《せん》なしとて小切《こぎ》れ入《い》れたる畳紙《たゝうがみ》とり出《い》だし、何《なに》とはなしに針《はり》をも取《と》られぬ、未《ま》だ幼《いとけ》なくて伯母《をば》なる人《ひと》に縫物《ぬひもの》ならひつる頃《ころ》、衽先《おくみさき》、褄《つま》の形《なり》など六づかしう言《い》はれし、いと恥《はづ》かしうて是《こ》れ習《なら》ひ得《え》ざらんほどはと家《いへ》に近《ちか》き某《それ》の社《やしろ》に日参《につさん》といふ事《こと》をなしける、思《おも》へば夫《そ》れも昔《むか》し成《なり》けり、をしへし人《ひと》は苔《こけ》の下《した》になりて習《なら》ひとりし身《み》は大方《おほかた》もの忘《わす》れしつ、斯《か》くたまさかに取出《とりいづ》るにも指《ゆび》の先《さき》こわきやうにて、はか/″\しうは得《え》も縫《ぬ》ひが
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