んにち》に連《つら》ぬる袖《そで》も温《あたゝ》かげに。良《りやう》さんお約束《やくそく》のもの忘《わす》れては否《いや》よ。アヽ大丈夫《だいじやうぶ》忘《わ》すれやアしなひ併《しか》しコーツと何《な》んだツけねへ。あれだものを出《で》かけにもあの位《くらゐ》願《ねが》つておいたのに。さう/\おぼえて居《ゐ》る八百屋《やをや》お七の機関《からくり》が見《み》たいと云《い》つたんだツけ。アラ否《いや》嘘《うそ》ばつかり。それぢやア丹波《たんば》の国《くに》から生捕《いけど》つた荒熊《あらくま》でございの方《はう》か。何《ど》うでもようございますよ妾《わたし》は最早《もう》帰《かへ》りますから。あやまつた/\今《いま》のはみんな嘘《うそ》何《ど》うして中村《なかむら》の令嬢《れいぢやう》千代子君《ちよこくん》とも云《いは》れる人《ひと》がそんな御|注文《ちうもん》をなさらう筈《はず》がない良之助《りやうのすけ》たしかに承《うけたま》はつて参《まゐ》つたものは。ようございます何《なに》も入《い》りません。さう怒《おこ》つてはこまる喧嘩《けんくわ》しながら歩行《あるく》と往来《わうらい》の人《ひと》が笑《わら》ふぢやアないか。だつてあなたが彼様《あん》なこと許《ばつ》かしおつしやるんだもの。夫《それ》だからあやまつたと云《い》ふぢやないかサア多舌《しやべつ》て居《ゐ》るうちに小間物屋《こまものや》のまへは通《とほ》りこして仕舞《しま》つた。あらマア何《どう》しませうねへ未《ま》だ先《さき》にもありますか知《し》ら。何《どう》だかぞんじませんたつた今《いま》何《なに》も入《い》らないと云《い》つた人《ひと》は何処《どこ》に。最早《もう》それはいひツこなしとゝめるも云《い》ふも一[#(ト)]筋道《すぢみち》横町《よこちやう》の方《かた》に植木《うゑき》は多《おほ》しこちへと招《まね》けば走《はし》りよるぬり下駄《げた》の音《おと》カラコロリ琴《こと》ひく盲女《ごぜ》は今《いま》の世《よ》の朝顔《あさがほ》か露《つゆ》のひぬまのあはれ/\粟《あは》の水飴《みづあめ》めしませとゆるく甘《あま》くいふ隣《となり》にあつ焼《やき》の塩《しほ》せんべいかたきをむねとしたるもをかし。千代《ちい》ちやん鳥渡《ちよつと》見玉《みたま》へ右《みぎ》から二|番目《ばんめ》のを。ハア彼の紅|梅《ばい》がいゝ事《こと》ねへと余念《よねん》なく眺《なが》め入《い》りし後《うしろ》より。中村《なかむら》さんと唐突《だしぬけ》に背中《せなか》たゝかれてオヤと振《ふ》り返《か》へれば束髪《そくはつ》の一|群《むれ》何《なに》と見《み》てかおむつましいことゝ無遠慮《ぶゑんりよ》の一|言《ごん》たれが花《はな》の唇《くちびる》をもれし詞《ことば》か跡《あと》は同音《どうおん》の笑《わら》ひ声《ごゑ》夜風《よかぜ》に残《のこ》して走《はし》り行《ゆ》くを千代《ちい》ちやん彼《あれ》は何《なん》だ学校《がくかう》の御朋友《おともだち》か随分《ずゐぶん》乱暴《らんばう》な連中《れんぢう》だなアとあきれて見送《みおく》る良之助《りやうのすけ》より低頭《うつむ》くお千代《ちよ》は赧然《はなじろ》めり
(中)
昨日《きのふ》は何方《いづかた》に宿《やど》りつる心《こゝろ》とてかはかなく動《うご》き初《そ》めては中々《なか/\》にえも止《と》まらずあやしや迷《まよ》ふぬば玉《たま》の闇《やみ》色《いろ》なき声《こゑ》さへ身《み》にしみて思《おも》ひ出《い》づるに身《み》もふるはれぬ其人《そのひと》恋《こひ》しくなると共《とも》に恥《はづ》かしくつゝましく恐《おそ》ろしくかく云《い》はゞ笑《わら》はれんかく振舞《ふるま》はゞ厭《いと》はれんと仮初《かりそめ》の返答《いらへ》さへはか/″\しくは云《い》ひも得《え》せずひねる畳《たゝみ》の塵《ちり》よりぞ山《やま》ともつもる思《おも》ひの数々《かず/\》逢《あ》ひたし見《み》たしなど陽《あら》はに云《い》ひし昨日《きのふ》の心《こゝろ》は浅《あさ》かりける我《わ》が心《こゝろ》我《われ》と咎《とが》むればお隣《となり》とも云《い》はず良様《りやうさま》とも云《い》はず云《い》はねばこそくるしけれ涙《なみだ》しなくばと云《い》ひけんから衣《ごろも》胸《むね》のあたりの燃《も》ゆべく覚《おぼ》えて夜《よる》はすがらに眠《ねむ》られず思《おもひ》に疲《つか》れてとろ/\とすれば夢《ゆめ》にも見《み》ゆる其人《そのひと》の面影《おもかげ》優《やさ》しき手《て》に背《そびら》を撫《な》でつゝ何《なに》を思《おも》ひ給《たま》ふぞとさしのぞかれ君様《きみさま》ゆゑと口元《くちもと》まで現《うつゝ》の折《をり》の心《こゝろ》ならひにいひも出《
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