》がいゝ事《こと》ねへと余念《よねん》なく眺《なが》め入《い》りし後《うしろ》より。中村《なかむら》さんと唐突《だしぬけ》に背中《せなか》たゝかれてオヤと振《ふ》り返《か》へれば束髪《そくはつ》の一|群《むれ》何《なに》と見《み》てかおむつましいことゝ無遠慮《ぶゑんりよ》の一|言《ごん》たれが花《はな》の唇《くちびる》をもれし詞《ことば》か跡《あと》は同音《どうおん》の笑《わら》ひ声《ごゑ》夜風《よかぜ》に残《のこ》して走《はし》り行《ゆ》くを千代《ちい》ちやん彼《あれ》は何《なん》だ学校《がくかう》の御朋友《おともだち》か随分《ずゐぶん》乱暴《らんばう》な連中《れんぢう》だなアとあきれて見送《みおく》る良之助《りやうのすけ》より低頭《うつむ》くお千代《ちよ》は赧然《はなじろ》めり

    (中)

 昨日《きのふ》は何方《いづかた》に宿《やど》りつる心《こゝろ》とてかはかなく動《うご》き初《そ》めては中々《なか/\》にえも止《と》まらずあやしや迷《まよ》ふぬば玉《たま》の闇《やみ》色《いろ》なき声《こゑ》さへ身《み》にしみて思《おも》ひ出《い》づるに身《み》もふるはれぬ其人《そのひと》恋《こひ》しくなると共《とも》に恥《はづ》かしくつゝましく恐《おそ》ろしくかく云《い》はゞ笑《わら》はれんかく振舞《ふるま》はゞ厭《いと》はれんと仮初《かりそめ》の返答《いらへ》さへはか/″\しくは云《い》ひも得《え》せずひねる畳《たゝみ》の塵《ちり》よりぞ山《やま》ともつもる思《おも》ひの数々《かず/\》逢《あ》ひたし見《み》たしなど陽《あら》はに云《い》ひし昨日《きのふ》の心《こゝろ》は浅《あさ》かりける我《わ》が心《こゝろ》我《われ》と咎《とが》むればお隣《となり》とも云《い》はず良様《りやうさま》とも云《い》はず云《い》はねばこそくるしけれ涙《なみだ》しなくばと云《い》ひけんから衣《ごろも》胸《むね》のあたりの燃《も》ゆべく覚《おぼ》えて夜《よる》はすがらに眠《ねむ》られず思《おもひ》に疲《つか》れてとろ/\とすれば夢《ゆめ》にも見《み》ゆる其人《そのひと》の面影《おもかげ》優《やさ》しき手《て》に背《そびら》を撫《な》でつゝ何《なに》を思《おも》ひ給《たま》ふぞとさしのぞかれ君様《きみさま》ゆゑと口元《くちもと》まで現《うつゝ》の折《をり》の心《こゝろ》ならひにいひも出《
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