かお爲《し》か、案じて居たにと手を取つて引入れられる者が他に有らうか、お氣の毒樣なこつたが獨活《うど》の大木は役にたゝない、山椒は小粒で珍重されると高い事をいふに、此野郎めと脊を酷く打たれて、有がたう御座いますと濟まして行く顏つき背さへあれば人串戲とて恕すまじけれど、一寸法師《いつすんぼし》の生意氣と爪はぢきして好い嬲《なぶ》りものに烟草休みの話しの種成き。

       下

 十二月三十日の夜、吉は坂上の得意場へ誂への日限の後《おく》れしを詫びに行きて、歸りは懷手の急ぎ足、草履下駄の先にかゝる物は面白づくに蹴かへして、ころ/\と轉げると右に左に追ひかけては大溝《おほどぶ》の中へ蹴落して一人から/\と高笑ひ、聞く者なくて天上のお月さまさも皓々《かう/\》と照し給ふを寒《さぶ》いと言ふ事知らぬ身なれば只こゝちよく爽《さわやか》にて、歸りは例の窓を敲いてと目算ながら横町を曲れば、いきなり後より追ひすがる人の、兩手に目を隱くして忍び笑ひをするに、誰れだ誰れだと指を撫でゝ、何だお京さんか、小指のまむしが物を言ふ、恐赫《おどか》しても駄目だよと顏を振のけるに、憎くらしい當てられて仕舞つたと笑
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