すゞろごと
樋口一葉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)訪《と》ひ来て

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)又|一《ひと》こゑ

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)夜《よ》な/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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        ほとゝぎす

 ほとゝぎすの声まだしらねば、いかにしてか聞かばやと恋しがるに、人の訪《と》ひ来て、「何かは聞えぬ事のあるべき。我が宿《やど》の大樹《おほき》にはとまりてさへ鳴くものを、夜ふけ枕《まくら》にこゝろし給へ。近く聞く時は唯一《たゞひと》こゑあやしき音《ね》に聞きなさるれど、遠くなりゆく声のいと哀れなるぞ」と教へられき。
 時は旧《ふる》き暦の五月《さつき》にさへあれば、おのが時たゞ今《いま》と心いさみて、それよりの夜《よ》な/\目もあはず、いかで聞きもらさじと待《まち》わたるに、はかなくて一夜《ひとよ》は過ぎぬ。そのつぎの夜《よ》もつぎの夜もおぼつかなくて、何時《いつ》しか暁月夜《あかつきづくよ》の頃にもなれば、などかくばかり物はおもはする、いとつれなくも
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