し 少納言は心たかく身のはか/″\しからざりしかばことに出で行ひにあらはさではいづらいかにと見る人もあらざりけんを式部は天台の一心三觀とやらんおさむる所ふかく侍りし 少納言も佛人にてはありけれどこゝろに浪のさわぎはげしければくまなき月は照らさずや侍りけん あはれなるはかくありける身ぞかし 才はおのづからにして徳はやしなふて後の物にこそ 風しづかにしては沖につり舟のかずも見るべく雲さわぎては外山のかげもおぼろげに成ぬべし 式部が日記に少納言をそしりしはさる事ながら此人はうきよのほか物なりける也 わが日の本に三筆のひとつといひし世尊寺の卿をはじめ袖のうつり香ゆかしとしたひし君たちのうちたれかはまが/\敷しれものあらんや さる人々の此君に別れぬる後いかならんつまを得たりともあはれたちまさりてなどおもへるはあらじ 一時の情に一とおもはれぬるは此人のゝぞみたりぬる成かし 駿馬の骨といひける終りのさまを淺ましとつまはじきするは其人をしらねばぞかし 宮の御前すら撫子に涙をそゝぎ給ひけるほど少納言のかくありけるは道理也 おなじうは御堂どのが前にて猶今少しいはせまほしき事侍り 此君を女としてあげつらふ人
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