すゑ》つかた極《きは》めて暑かりしに唯《ただ》一日《ひとひ》ふつか、三日《みつか》とも数へずして驚くばかりになりぬ。秋《あき》かぜ少しそよ/\とすれば、端《はし》のかたより果敢《はか》なげに破れて、風情《ふぜい》次第に淋《さび》しくなるほど、雨《あめ》の夜《よ》の音《おと》なひこれこそは哀れなれ。こまかき雨ははら/\と音して草村《くさむら》がくれ鳴《なく》こほろぎのふしをも乱さず、風|一《ひと》しきり颯《さつ》と降《ふり》くるは、あの葉にばかり懸《かか》るかといたまし。
 雨は何時《いつ》も哀れなる中に秋はまして身にしむこと多かり。更《ふ》けゆくまゝに燈火《ともしび》のかげなどうら淋しく、寝られぬ夜《よ》なれば臥床《ふしど》に入《い》らんも詮《せん》なしとて、小切《こぎ》れ入れたる畳紙《たたうがみ》とり出だし、何《なに》とはなしに針をも取られぬ。まだ幼《いとけ》なくて伯母《をば》なる人に縫物ならひつる頃、衽先《おくみさき》、褄《つま》の形《なり》など六《む》づかしう言はれし。いと恥かしうて、これ習ひ得ざらんほどはと、家に近き某《それ》の社《やしろ》に日参《につさん》といふ事をなしける、
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