すゑ》つかた極《きは》めて暑かりしに唯《ただ》一日《ひとひ》ふつか、三日《みつか》とも数へずして驚くばかりになりぬ。秋《あき》かぜ少しそよ/\とすれば、端《はし》のかたより果敢《はか》なげに破れて、風情《ふぜい》次第に淋《さび》しくなるほど、雨《あめ》の夜《よ》の音《おと》なひこれこそは哀れなれ。こまかき雨ははら/\と音して草村《くさむら》がくれ鳴《なく》こほろぎのふしをも乱さず、風|一《ひと》しきり颯《さつ》と降《ふり》くるは、あの葉にばかり懸《かか》るかといたまし。
雨は何時《いつ》も哀れなる中に秋はまして身にしむこと多かり。更《ふ》けゆくまゝに燈火《ともしび》のかげなどうら淋しく、寝られぬ夜《よ》なれば臥床《ふしど》に入《い》らんも詮《せん》なしとて、小切《こぎ》れ入れたる畳紙《たたうがみ》とり出だし、何《なに》とはなしに針をも取られぬ。まだ幼《いとけ》なくて伯母《をば》なる人に縫物ならひつる頃、衽先《おくみさき》、褄《つま》の形《なり》など六《む》づかしう言はれし。いと恥かしうて、これ習ひ得ざらんほどはと、家に近き某《それ》の社《やしろ》に日参《につさん》といふ事をなしける、
前へ
次へ
全10ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
樋口 一葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング