、またこの書を稿し、来たりて余に詢《はか》るに刊行のことをもってす。よってこれに答えて曰《いわ》く。この文をもってこの挙あり。なんぞ詢るの用あらん。しかるに詢る。余いずくんぞ一言なきを得んや。古人初めて陳《の》ぶるに臨まば奇功多からざらんを欲す。その小成に安んずるをおそるるなり。今君は弱冠にして奇功多し。願わくは他日|忸《な》れて初心を忘るるなかれ。余初めて書を刊して、またいささか戒むるところあり。今や迂拙《うせつ》の文を録し、恬然《てんぜん》として愧《は》ずることなし。警戒近きにあり。請う君これを識《し》れと。君笑って諾す。すなわちその顛末《てんまつ》を書し、もって巻端に弁ず。
  明治十九年十二月
[#地から1字上げ]田口卯吉 識



底本:「日本の名著 40」中央公論社
   1971(昭和46)年8月10日初版発行
   1982(昭和57)年2月25日3版発行
底本の親本:「将来の日本」経済雑誌社
   1886(明治19)年初版
初出:「将来の日本」経済雑誌社
   1886(明治19)年初版
入力:田部井 荘舟
校正:門田裕志、小林繁雄
2009年4月1日作成
青空文庫
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