るという
予約金取込みのアテ外れ
円本出版屋が予想裏切の一として一時当惑したのは、予約金取込みのアテ外れであった、最初予約の証拠金として一円を徴収し、それを最終篇の代金に当てるという規定で、取次店へ申込んでも同く一円払込という事にして居たが、取次店では其証拠金を払込まない、其口実は「若し出版元が中途で止めた時、其証拠金を返して呉れないと此方の責任でお客へ一円返弁せねばならぬ損害を受けるから、今予約金を渡す事は出来ない」と云い、又「予約金を払込まねば無効だと云うのなら、アナタの方は止めにして、他の出版屋の本に変更させます」とホザイタのもあった、尚又取次小売店では右の如く出版元へ予約金を払込まない事にしたので、馴染の顧客からは予約金を取らない事にし、其取らないのが例となって、酒屋の御用きき、床屋の下剃などの新客からまでも予約金を取らなかったのである
そこで、出版元では、五万人の予約者があれば五万円、十万あれば十万円の収入があるものと予算して、三万円六万円の新聞広告料を支払い、内容見本代の実費を支払っても、尚余りがあると、虫のよい勘定であったが、出版元への直接予約者は十分の一に過ぎないので、これが第一のアテ外れであり、此予約金を取らない事にしたのが後に破約者続出の一因ともなって、それが第二のアテ外れになったのである
取次小売店が横暴と呼ばれた事
前記の如く円本予約の取次店が証拠金を出版元に払込まない口実は、取次店の横暴と云えば云えない事もなく、又『子供文庫』の出版元が予約の証拠金を強要するのならばお客にすすめて、『笑愕全集』に変更させると威喝したなどは、ホントの横暴であろうがソコまで威喝されて平伏した出版元のイキジなさは、アワレ憫然の至り、ソコが競争者の弱味、取次店の付ヶ込み所で、横暴にしても痛快な横暴であったネーと、当時我輩は話柄の一にしたのである
近頃聴く所によると、甲乙両店が競争して居る二種の『エリコノミ全集[#「エリコノミ全集」の「リ」以外に圏点]』は名古屋市で猛烈な競争戦を開始し、一方が各書店の手代を自動車に乗せて、景気よく顧客の戸別訪問をやったので、一方も我負けじと同く手代連を引出し、自動車に乗せて市内巡りをやったが、此時其手代連の一人が或者に「東京の出版屋は地方の取次店を横暴だと叫んだ事もあったが、昨今は東京の出版屋が横暴です、忙しい用のある我々を無理に
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