国産用紙の浪費
我輩は資本主義を絶対に否定する者ではない、其利を認め其害を認めて居る、現在に於ける円本出版の流行は、資本家ならぬ遣繰屋が企画して居るのもあるが、いずれにしても大量生産は資本主義を根底とするもの、円本流行は即ち資本主義の跋扈で、其弊害のみを多々現出して居るのである、本書列挙の害毒十六ヶ条は悉く資本主義より生ぜし害毒に外ならない、其中で最も顕著の事実は洋紙の浪費である、多く売れなくてもよい、大量生産の半数がモノになれば実費を償うに足りる、残る半数をツブシと見ても、幾許/\《いくらいくら》の利益を得られると云う勘定、始めよりツブシを仮定しての生産である、それが仮定の通りに残本山積となって居るのであるから、他の有益な良書に使用し得べき多量の洋紙を浪費し、シカモ洋紙の価格を騰貴せしめて居る、国家主義若しくは社会政策の上より見て、資本主義の円本流行は一日も早く撃退せねばならぬ
製本技術の低下
従来の単行本は概ね一千部乃至三千部を限度として初版を製本したのであるが、流行の円本は十万二十万、多きは四十万部の製本となった、そこで従来一冊の製本料が二十銭乃至三十銭位であったものが、大量生産の「数でコナス」という通則で、一冊八銭若しくは十二三銭で請負う事になったのである、それがため従来一時間に五十部仕上げて居たものが、百部も二百部も仕上げねば勘定に合わぬ事になったので、巧遅よりも拙速という事に変じたのである、拙速……粗雑でも早いがよい……これが製本技術の低下で、従来の一千部乃至二三千部位の製本料は旧価のままでありながら、拙速に手馴れた職工共はヤハリ廉価な円本同様の仕上げをするのである、それで少数の単行本出版屋は、従前通りの高価を払って粗雑な製本を押付けられる事になった、これも資本主義の円本が普通出版屋に及ぼした害毒の一つに算えねばならぬ事であろう
通信機関の大妨害
従来広告依頼者の多い大新聞社は、威張ッて依頼者の要求を容れない事が多かったのであるが、円本流行で一頁又は二頁続きの大広告を出す事になったので、大新聞社が一層威張るように成った、従前は依頼した当日より五六日目若しくは十日以内に掲出して居たが、昨春以来はそれが十日も二十日も遅れ(死亡広告だけは例外)場所指定などは、一ヶ月前に申込んで予約せねばならぬのである、それを若し何日迄に是非掲出して下さいと頼めば、ソンナに
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