や、
間の拔けた眠さうな不平をこぼす汽笛や、
だるさうな時計の響が味もなくあつち、こつちで
眞似をして仕損つたやうに、自信もなく離れ/″\に鳴る。
あゝ毎晩々々、雨の降る夜も星の降る夜も、自分の頭に響て來る
無數の百姓の車の音は自分に喜びを運んで來る
飾り氣の無い木の音のいつも變らない快さ
天から幸福を運んで繰り出して來る神來の無數の車を迎へる。
その一つ事に熱中した心の底から親切な、
喜びいそぐ無數の車の音、樂しい、賑やかな、勇しい音。
あゝ、汝の勝利だ
その一生懸命な小さいけれど氣の揃つた
豐かな百姓車の軍勢が堂々と繰り出して行つたら何でも負ける。
道を讓る
あゝ勇しい木の輪の音の行列よ
どん/\繰り出して來い。
天の一方から下りて來い
下界を目がけて、一直線に遠い/\ところから走つて來る星のやうに
都會を目がけてその一絲も亂さず、整然と
同じ法則、同じ姿勢で
立派に揃つた、木の音で
電車道を踏み鳴らして行け、躍つて行け
揃ひも揃つて選り拔きの、よく洗はれた手入の屆いた、簡單で、
調法な、木の車の自信のある安らかな音色よ
何ものも御前の音に敵ふ奴は無い。
憎々しい惰弱な病的な汽笛や不平な野心の逞しい機械の音より
どの位、
御前の勤勉な盡き無い木の音の方が俺は大好きだか知れないぞ、
前にゆくものゝ音を受けついで、後から來る者に傳へて、
赤兒のやうに生れて來る、
汝の盡きる事なく繰り出す音は
此世のものでは無い、天上のものだ
喜びだ、勝どきだ。
おゝ又氣がつけば賑やかな、いつも機嫌な木の輪の音の群
滿ち、溢れ、盡きずくり出して來て
ぴつたり跡を殘さず消えて行く自信のある歌ひぶりよ神來が來り、
大擾亂を呈して過ぎ去つたあとのやうに一つも殘さず、
漏れる事無く歌ひ終る。
無數の木の輪の音、
わが愛す、喜びの歌、
平易で味の無いやうで
無限な味の籠つた
天の變化にも追ひ付く、單調な喜びの歌、
天來の音、呱々の聲
簡單で完全な、よく洗はれた、手入のいゝ、親切な車の輪の音、
氣の揃つた賑やかなコーラス
毎晩來てくれ、
毎晩調子を揃へて繰り出して來て呉れ
巣鴨の大通りを田舍からつゞいて來る
無數の百姓車の木の輪の音、
俺は毎晩待つて居る。きつと氣がつく
御前の來るのを待つのは恐いけれど
來てしまへば俺は元氣づいて躍り出す、
氣がつけば引つきり無しに遣つて來る、神來の喜
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