それを見乍らどうして地球は圓いか話し合つてゐた、
弟や妹は今晩曲馬へ來たがつた。
自分をせびつた、
自分は斷るのが可愛相な氣がした。
棧敷にはだんだん人が殖えた。
それ等の人を見ると自分は恥しい氣がした。
小供をつれて入つてゆくのが恥しい氣がした、
自分は赤い顏をした。
弟や妹をごまかして歸りかけた。
二人は自分の手に兩方からぶら下つた。
自分は淋しくなつた。涙ぐんだ。
自分はうしろに賑やかな然し悲しい樂隊を聞き、
札賣りのどなる聲を聞き乍ら
何かに襲はれるやうに坂を下つた。
門が見えると
弟も妹も自分の手を離れて一目散にかけて行つた。
自分は淋しく苦るしかつた。死んだ弟の事を思ひ出した。
自分もうしろから家をめがけて馳け出した。
[#地から1字上げ](一〇、一三夕)
創作家の喜び
見えて來る時の喜び、
それを知ら無い奴は創作家では無い
平常は生きてゐても、本當ではない
自分の内のものが生きる喜びだ。
自分の内の自然、或は人類が生きる喜びだ。
創作家は、その喜びの使ひだ。
初めて小供を
初めて小供を
草原で地の上に下ろして立たした時
小供は下許り向いて、
立つたり、しやがんだりして
一歩も動かず
笑つて笑つて笑ひぬいた、
恐さうに立つては嬉しくなり、そうつとしやがんで笑ひ
その可笑しかつた事
自分と小供は顏を見合はしては笑つた。
可笑しな奴と自分はあたりを見廻して笑ふと
小供はそつとしやがんで笑ひ
いつまでもいつまでも一つ所で
悠々と立つたりしやがんだり
小さな身をふるはして
喜んで居た。
道端で
道端にベニ色の衣服を着た赤ん坊を抱いた老婆が休んで居る。
母の胎内ですつかりのびた小供の頭の髮は
ところ/″\から長くのびて前へ垂れ
大きなつむりを下げて默々と地上を見詰めて動いて居る。
靜かにおとなしく、孤獨で
未だものを見る勢も無いが、彼はもう動き出しさうに見える。
よそ見してゐる老婆の手からすりぬけて行きさうに見える。
頭がだんだん垂れて行く、地上へ向つて。
その深い姿は日の目の見えぬ他界の蔭に育つたものを思はせる。
地の底を流れる河の渦まく淵から現はれたやうに暗黒で異樣だ。
そこに此世ならぬ顏がもう一つ現はれて居る。
地球が青空の中に包まれて浮んで居るやうに
見えぬ姿に包まれて半分姿を此世に現はして居る。
默々として孤獨で、つくられたまゝ
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